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KY活動が形骸化する5つの型と、立て直し方
ネタ切れの解消まで

毎朝やっている。指差し呼称もしている。それでも「読み上げるだけ」になっていないでしょうか。 この記事では、KY活動が形だけになる原因を5つの型に分けて診断し、 ネタ切れの解消手順と、言わせる教育から体験させる教育へ移す考え方までを整理しました。

最終更新:2026年9月9日/株式会社vartique

1. KY活動とは(KYTとの違い)

KY活動(危険予知活動)とは、作業を始める前に、その作業に潜む危険を全員で出し合い、 対策と行動目標を決めてから着手する活動です。「危険予知」の頭文字をとってKYと呼ばれます。

進め方は4つの段階で整理されるのが一般的です。

  1. 現状把握:どんな危険が潜んでいるか、思いつくまま出す
  2. 本質追究:出た中から「これが危ない」という本命を絞る
  3. 対策樹立:その危険に対して、具体的にどうするかを出す
  4. 目標設定:その日の行動目標を1つ決め、指差し呼称で確認する

よく混同されますが、KYT(危険予知訓練)は「訓練」、KY活動は「日々の実践」という関係です。 イラストシートを使って危険を探す練習がKYT、それを毎日の作業前に現場で回すのがKY活動、と整理すると分かりやすくなります。

制度・様式の一次情報は、公的機関の資料が確実です。 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」や中央労働災害防止協会(中災防)が、KYTの進め方や教材を公開しています。 この記事は、その手順を知ったうえで「回しているのに効いていない」と感じている方に向けて書いています。

2. データ:やっているのに、死傷者は4年連続で増えている

KY活動は日本の現場にほぼ定着しています。それでも、労働災害の数字は下がり切っていません。

指標数値傾向
死亡者数700人(2025年) 2020年の784人から5年連続で減少
休業4日以上の死傷者数135,718人(2024年) 前年比+347人で4年連続の増加

死亡災害は減っているのに、死傷災害は増え続けている。これが今の形です。 さらに、事故の型別に見ると内訳がはっきりします。

順位事故の型人数(2024年)
1位転倒36,378人(+320人)
2位動作の反動・無理な動作22,218人
3位墜落・転落20,699人
1位と2位は、知識で防げる種類の事故ではありません。 「濡れた床は滑る」「腰をひねって持つと痛める」——これらは全員が知っています。 それでも起きるのは、知識ではなく、とっさの身体の反応や、その瞬間の判断の問題だからです。 読み上げるKY活動が効きにくいのは、ここに理由があります。

出典:厚生労働省「労働災害発生状況」、労働政策研究・研修機構(JILPT)主要労働統計指標。 ※2025年の死亡者数は、新型コロナウイルス感染症のり患による労働災害を除いた値です。

3. 形骸化する5つの型

「うちのKYは形だけになっている」という声は多いのですが、原因は現場ごとに違います。 次の5つのどれに当てはまるかで、打つ手が変わります。

こんな症状

型1:読み上げ型 ── 昨日と同じ文言を読んでいる

ホワイトボードに書かれた危険予知が先週から変わっていない。担当者が読み、全員が復唱して終わる。

直し方:「今日の作業で、昨日と違うところは何か」を最初の問いにする。 天候、人員、資材の置き場所、初めて入る人の有無。変化点だけを話題にすると、文言は自然に変わります。
こんな症状

型2:正解あて型 ── 職長が答えを持っていて、全員が当てにいく

意見を出す場のはずが、職長の想定した答えを言えた人が終了、という運用になっている。若手が黙る。

直し方:職長は最後に話す。先に一番若い人から言ってもらう順番にするだけで、出てくる危険の種類が変わります。 「間違った危険」を否定しないことも重要です。
こんな症状

型3:記録優先型 ── 用紙を埋めることが目的になっている

提出用のKY用紙が整っているかどうかが評価軸になり、現場では作業開始後に書かれている。

直し方:用紙の項目を減らす。「今日の危険1つ」と「行動目標1つ」だけに絞ると、 書くために話すのではなく、話した結果を書く順序に戻ります。
こんな症状

型4:ネタ切れ型 ── 毎日やることがなくなった

同じ作業の繰り返しで、出せる危険を出し尽くした感覚になっている。次章で扱います。

直し方:危険を「作業」からではなく「自社で実際に起きたヒヤリハット」から拾う。 詳しくは4章。
こんな症状

型5:他人事型 ── 危険は分かるが、自分に起きる気がしない

「墜落は怖い」と言葉では言えるが、実感がない。特に経験の浅い人と、逆に慣れきったベテランに起きます。

直し方:ここだけは、言葉と紙では埋まりません。 一度「ヒヤリとした」経験を安全につくる必要があります。5章で扱います。

4. ネタ切れの正体と、ネタの作り方

「KYのネタが尽きた」という相談は非常に多いのですが、ネタが尽きているのではなく、 ネタの取り出し口が1つしかないことがほとんどです。取り出し口は、少なくとも4つあります。

取り出し口1:自社のヒヤリハット報告

いちばん効きます。他社事例より自分の現場の話のほうが刺さるからです。 報告書が眠っているなら、月に1件、朝礼で読み上げるだけでも1年で12ネタになります。 「なぜ報告が集まらないか」が先に来る場合は、報告様式を1行に減らすところから始めてください。

取り出し口2:作業手順書の「変化点」

新しい資材、初めて使う工具、いつもと違う搬入経路。変わったところには必ず未知の危険があります。 手順書の改訂履歴は、そのままKYのネタ帳になります。

取り出し口3:公的機関の災害事例データベース

厚生労働省「職場のあんぜんサイト」には、業種別・事故の型別の災害事例が多数公開されています。 自社と近い業種・作業を選べば、そのまま議論の素材になります。イラストシートを配布している団体もあります。

取り出し口4:季節と体調

熱中症、凍結、日没の早まり、繁忙期の疲労、連休明け。 作業は同じでも、条件は毎月変わります。年間カレンダーを作ると、ネタ切れはかなり解消します。

ネタを増やしても、型5(他人事型)は解決しません。 ネタ切れの解消は「話す材料」を増やす対策です。 「分かっているのに体が動かない」「自分には起きないと思っている」という段階には、別の手当てが要ります。

5. 「言わせる」から「やらせる」へ

安全教育の悩みは、突き詰めるとひとつの矛盾に行き着きます。

本当に効くのは「ヒヤリとした体験」だけ。しかし、その体験を現場でさせるわけにはいかない。

墜落しかけた、感電しかけた、挟まれかけた。こうした経験をした人は、二度と同じ状況に近づきません。 一方で、教育のためにその状況を作ることはできません。この矛盾を埋める方法が、疑似的に体験させることです。

体験型に寄せる方法は、XRだけではありません。実際には次のような幅があります。

方法できること限界
安全体感設備
(実機の治具)
挟まれ・巻き込まれなどを、実物で体感できる 設置場所と費用が要る。高所や感電は再現しにくい
ロールプレイ・実演 手順の確認と、その場での指摘ができる 「危ない目に遭う」感覚までは届きにくい
映像教材 事故の再現を全員に同じ内容で見せられる 見るだけになりやすい。自分の操作の結果ではない
VR・MR・AR 高所・感電・落石など、実際には試せない状況を安全に体験できる。 自分の操作の結果として失敗が起きる 機材と制作費が要る。1人ずつの体験になるため回転率の設計が必要

さらに、教育とは別の軸として「現場を仕組みで見る」という手当てもあります。 これは7章で扱います。

6. 体験型に寄せるときの選択肢

XRを使う場合、「VRを買う」ではなく「どの作業の、どの事故を防ぎたいか」から決めると失敗しません。 当社が実際に開発したコンテンツも、すべてこの順で設計しています。

林業職の枝打ち作業をVRで体験している画面
林業職 枝打ち作業VR(東京都水道局様 開発実績)。手順の習得と、間違えた場合に何が起こるかの疑似体験を、1つのシナリオに組み込んでいます。

VR|現実には試せない状況をつくる

高所、落石、感電。失敗の結果まで見せられるのがVRの強みです。 視界を完全に覆うため没入感が高く、「他人事型」に対していちばん効きます。

MR|実物の設備と重ねる

現実の空間に情報を重ねる方式です。実際の設備の前で手順や危険箇所を表示できるため、 覚えたことを、そのまま現場の位置関係で確認できます。 環境検査職の希釈作業では、この方式(MR)で制作しています。

環境検査職の希釈作業をMRで確認している画面
環境検査職 希釈作業MR(東京都水道局様 開発実績)。実物の設備と重ねて、手順と危険箇所を確認します。

AR|全員が同時に、機材なしで参加する

スマートフォンやタブレットで動くため、ヘッドセットを人数分そろえる必要がありません。 防災・減災の体験学習として制作した「GENSAI迷路」(三和商事株式会社様)は、この形です。 大人数の集合研修や、イベント形式の安全大会に向きます。

デバイスは目的から逆算してください。 1人ずつじっくり体験させたいならVR、実物の前で覚えさせたいならMR、 大人数を一度に回したいならAR。先に機材を決めると、たいてい合わなくなります。 当社の対応範囲はXR安全研修にまとめています。

7. もう一つの手:人の注意力に頼らない仕組みにする

ここまでは「気づける人を増やす」話でした。ただ、どれだけ教育しても、 8時間ずっと同じ集中力で注意し続けることは誰にもできません。 教育と対になるのが、人が見ていない時間も、仕組みのほうが見ている状態をつくることです。

現場のカメラ映像をAIで解析すると、次のようなことが自動でできます。 2章で見た事故の型の1位と2位は、まさにここで拾える領域です。

拾えるものやり方対応する事故の型
危険エリアへの立ち入り 映像の上に立入禁止の領域を描いておき、人が入ったら検知する はさまれ・巻き込まれ、激突
無理な姿勢・動作 姿勢推定で関節の角度を取り、腰をひねる・かがんで持ち上げるといった動作を数値で拾う 2位:動作の反動・無理な動作(22,218人)
人が集まる場所・通る動線 滞留と動線をヒートマップにして、人が集中する場所や交差する動線を特定する 1位:転倒(36,378人)
保護具の着用状況 物体検出で、対象物が写っているかを判定する 頭部の受傷、飛来・落下
転倒対策に効くのは、注意喚起より「どこで起きるか」の特定です。 転倒は死傷災害の1位ですが、「気をつけて」と言い続けても減りません。 人が集中して通る場所、動線が交差する場所、荷物を持ったまま曲がる場所。 実際の人の動きをヒートマップにすると、対策すべき場所が数か所に絞れます。 当社では人流分析としてご提供しています。
ただし、AIで検知すれば安全になるわけではありません。 検知はあくまで「起きたこと・起きかけたことを拾う」仕組みです。 拾った情報を誰が見て、どう現場に返すかを決めていないと、アラートが鳴るだけで終わります。 教育(体験させる)と検知(仕組みで見る)は、どちらか一方では足りません。

なお、カメラ映像の解析は既設の防犯カメラの映像で始められることが多く、 個人を特定せずに人物の位置と動きだけで集計する構成にもできます。 解析を端末内で完結させれば、映像を外部へ送信しません。 技術的な内容はAI画像解析とは、 対応範囲は作業分析・安全管理AIにまとめています。 用途は個別開発の対象になりますので、 どの作業のどの事故を拾いたいかをお聞かせいただければ、実現方法をご提案します。

8. 明日から変えられる3つのこと

そのうえで「知識では止まらない」段階に来ていると感じたら、体験型を検討する時期です。 いきなり全社導入ではなく、いちばん事故が多い1作業に絞って作るところから始めるのが現実的です。

9. よくあるご質問

KY活動とKYT(危険予知訓練)は何が違いますか?

KYTは危険を見つける力を鍛える「訓練」、KY活動はそれを日々の作業前に回す「実践」です。 KYTのイラストシートで練習し、現場のKY活動で使う、という関係になります。

KY活動のネタが尽きました。どうすればよいですか?

作業からネタを探すのをやめて、自社のヒヤリハット報告、手順書の変化点、公的機関の災害事例、季節と体調の 4つから取り出してください。詳しくは4章に手順をまとめています。

VRを導入すれば、災害は減りますか?

導入するだけでは減りません。効くのは、実際に多い事故に対して、自分の操作の結果として失敗を体験できる設計にした場合です。 逆に言えば、その設計ができていない体験型は、映像教材と大差なくなります。 当社では、どの作業のどの事故を防ぎたいかを先に伺ったうえでシナリオを設計しています。

受講記録や成績は管理できますか?

標準で搭載しているものではなく、個別開発の対象になります。 誰が何回受講し、どこでつまずいたかを残したい場合は、要件をお聞きしたうえでご提案します。

費用はどのくらいかかりますか?

再現する作業の複雑さ、シナリオの分岐の数、対応デバイス、同時に使う人数によって変わるため、 定価はご用意していません。まず1作業に絞った小さな構成からのご相談を多くいただいています。 予算に上限がある場合は、その範囲で何ができるかをご提案します。

ヘッドセットを持っていなくても始められますか?

始められます。ARであれば手持ちのスマートフォンやタブレットで動きます。 VRが必要な場合も、まずは数台での実施から広げる進め方が可能です。

資料をご用意しています。 労働災害の統計、従来の安全教育が効かない理由、VR/MR/ARの使い分け、開発事例、既製教材と受託開発の違いまでを まとめた「XR安全研修 導入ガイド」(PDF・全17ページ)を無料で配布しています。 資料ダウンロードはこちら