KY活動(危険予知活動)とは、作業を始める前に、その作業に潜む危険を全員で出し合い、 対策と行動目標を決めてから着手する活動です。「危険予知」の頭文字をとってKYと呼ばれます。
進め方は4つの段階で整理されるのが一般的です。
よく混同されますが、KYT(危険予知訓練)は「訓練」、KY活動は「日々の実践」という関係です。 イラストシートを使って危険を探す練習がKYT、それを毎日の作業前に現場で回すのがKY活動、と整理すると分かりやすくなります。
KY活動は日本の現場にほぼ定着しています。それでも、労働災害の数字は下がり切っていません。
| 指標 | 数値 | 傾向 |
|---|---|---|
| 死亡者数 | 700人(2025年) | 2020年の784人から5年連続で減少 |
| 休業4日以上の死傷者数 | 135,718人(2024年) | 前年比+347人で4年連続の増加 |
死亡災害は減っているのに、死傷災害は増え続けている。これが今の形です。 さらに、事故の型別に見ると内訳がはっきりします。
| 順位 | 事故の型 | 人数(2024年) |
|---|---|---|
| 1位 | 転倒 | 36,378人(+320人) |
| 2位 | 動作の反動・無理な動作 | 22,218人 |
| 3位 | 墜落・転落 | 20,699人 |
出典:厚生労働省「労働災害発生状況」、労働政策研究・研修機構(JILPT)主要労働統計指標。 ※2025年の死亡者数は、新型コロナウイルス感染症のり患による労働災害を除いた値です。
「うちのKYは形だけになっている」という声は多いのですが、原因は現場ごとに違います。 次の5つのどれに当てはまるかで、打つ手が変わります。
ホワイトボードに書かれた危険予知が先週から変わっていない。担当者が読み、全員が復唱して終わる。
意見を出す場のはずが、職長の想定した答えを言えた人が終了、という運用になっている。若手が黙る。
提出用のKY用紙が整っているかどうかが評価軸になり、現場では作業開始後に書かれている。
同じ作業の繰り返しで、出せる危険を出し尽くした感覚になっている。次章で扱います。
「墜落は怖い」と言葉では言えるが、実感がない。特に経験の浅い人と、逆に慣れきったベテランに起きます。
「KYのネタが尽きた」という相談は非常に多いのですが、ネタが尽きているのではなく、 ネタの取り出し口が1つしかないことがほとんどです。取り出し口は、少なくとも4つあります。
いちばん効きます。他社事例より自分の現場の話のほうが刺さるからです。 報告書が眠っているなら、月に1件、朝礼で読み上げるだけでも1年で12ネタになります。 「なぜ報告が集まらないか」が先に来る場合は、報告様式を1行に減らすところから始めてください。
新しい資材、初めて使う工具、いつもと違う搬入経路。変わったところには必ず未知の危険があります。 手順書の改訂履歴は、そのままKYのネタ帳になります。
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」には、業種別・事故の型別の災害事例が多数公開されています。 自社と近い業種・作業を選べば、そのまま議論の素材になります。イラストシートを配布している団体もあります。
熱中症、凍結、日没の早まり、繁忙期の疲労、連休明け。 作業は同じでも、条件は毎月変わります。年間カレンダーを作ると、ネタ切れはかなり解消します。
安全教育の悩みは、突き詰めるとひとつの矛盾に行き着きます。
墜落しかけた、感電しかけた、挟まれかけた。こうした経験をした人は、二度と同じ状況に近づきません。 一方で、教育のためにその状況を作ることはできません。この矛盾を埋める方法が、疑似的に体験させることです。
体験型に寄せる方法は、XRだけではありません。実際には次のような幅があります。
| 方法 | できること | 限界 |
|---|---|---|
| 安全体感設備 (実機の治具) |
挟まれ・巻き込まれなどを、実物で体感できる | 設置場所と費用が要る。高所や感電は再現しにくい |
| ロールプレイ・実演 | 手順の確認と、その場での指摘ができる | 「危ない目に遭う」感覚までは届きにくい |
| 映像教材 | 事故の再現を全員に同じ内容で見せられる | 見るだけになりやすい。自分の操作の結果ではない |
| VR・MR・AR | 高所・感電・落石など、実際には試せない状況を安全に体験できる。 自分の操作の結果として失敗が起きる | 機材と制作費が要る。1人ずつの体験になるため回転率の設計が必要 |
さらに、教育とは別の軸として「現場を仕組みで見る」という手当てもあります。 これは7章で扱います。
XRを使う場合、「VRを買う」ではなく「どの作業の、どの事故を防ぎたいか」から決めると失敗しません。 当社が実際に開発したコンテンツも、すべてこの順で設計しています。
高所、落石、感電。失敗の結果まで見せられるのがVRの強みです。 視界を完全に覆うため没入感が高く、「他人事型」に対していちばん効きます。
現実の空間に情報を重ねる方式です。実際の設備の前で手順や危険箇所を表示できるため、 覚えたことを、そのまま現場の位置関係で確認できます。 環境検査職の希釈作業では、この方式(MR)で制作しています。
スマートフォンやタブレットで動くため、ヘッドセットを人数分そろえる必要がありません。 防災・減災の体験学習として制作した「GENSAI迷路」(三和商事株式会社様)は、この形です。 大人数の集合研修や、イベント形式の安全大会に向きます。
ここまでは「気づける人を増やす」話でした。ただ、どれだけ教育しても、 8時間ずっと同じ集中力で注意し続けることは誰にもできません。 教育と対になるのが、人が見ていない時間も、仕組みのほうが見ている状態をつくることです。
現場のカメラ映像をAIで解析すると、次のようなことが自動でできます。 2章で見た事故の型の1位と2位は、まさにここで拾える領域です。
| 拾えるもの | やり方 | 対応する事故の型 |
|---|---|---|
| 危険エリアへの立ち入り | 映像の上に立入禁止の領域を描いておき、人が入ったら検知する | はさまれ・巻き込まれ、激突 |
| 無理な姿勢・動作 | 姿勢推定で関節の角度を取り、腰をひねる・かがんで持ち上げるといった動作を数値で拾う | 2位:動作の反動・無理な動作(22,218人) |
| 人が集まる場所・通る動線 | 滞留と動線をヒートマップにして、人が集中する場所や交差する動線を特定する | 1位:転倒(36,378人) |
| 保護具の着用状況 | 物体検出で、対象物が写っているかを判定する | 頭部の受傷、飛来・落下 |
なお、カメラ映像の解析は既設の防犯カメラの映像で始められることが多く、 個人を特定せずに人物の位置と動きだけで集計する構成にもできます。 解析を端末内で完結させれば、映像を外部へ送信しません。 技術的な内容はAI画像解析とは、 対応範囲は作業分析・安全管理AIにまとめています。 用途は個別開発の対象になりますので、 どの作業のどの事故を拾いたいかをお聞かせいただければ、実現方法をご提案します。
そのうえで「知識では止まらない」段階に来ていると感じたら、体験型を検討する時期です。 いきなり全社導入ではなく、いちばん事故が多い1作業に絞って作るところから始めるのが現実的です。
KYTは危険を見つける力を鍛える「訓練」、KY活動はそれを日々の作業前に回す「実践」です。 KYTのイラストシートで練習し、現場のKY活動で使う、という関係になります。
作業からネタを探すのをやめて、自社のヒヤリハット報告、手順書の変化点、公的機関の災害事例、季節と体調の 4つから取り出してください。詳しくは4章に手順をまとめています。
導入するだけでは減りません。効くのは、実際に多い事故に対して、自分の操作の結果として失敗を体験できる設計にした場合です。 逆に言えば、その設計ができていない体験型は、映像教材と大差なくなります。 当社では、どの作業のどの事故を防ぎたいかを先に伺ったうえでシナリオを設計しています。
標準で搭載しているものではなく、個別開発の対象になります。 誰が何回受講し、どこでつまずいたかを残したい場合は、要件をお聞きしたうえでご提案します。
再現する作業の複雑さ、シナリオの分岐の数、対応デバイス、同時に使う人数によって変わるため、 定価はご用意していません。まず1作業に絞った小さな構成からのご相談を多くいただいています。 予算に上限がある場合は、その範囲で何ができるかをご提案します。
始められます。ARであれば手持ちのスマートフォンやタブレットで動きます。 VRが必要な場合も、まずは数台での実施から広げる進め方が可能です。